世界と解説
アート作品をそれぞれの専門家が専門的観点から「勝手に」解説するコンテンツ。
【目的】
世界と解説は、専門家のアート作品の解釈を知るという活動を通して、専門家の見方というものを知る教材です。
作品解釈には多様性があり、その自由度を活かして専門家の多様な見方を紹介していきます。専門性を正解、不正解ではなく、多様性という観点から伝えていく手法です。
【用意するもの】アート作品の写真、専門家の解説
【準備】
①アート作品の写真を見せて、専門家に「自分の研究の観点からこの作品、
どう解釈できますか?」と問いかけます。
②勝手な解釈を記録します。お手紙形式や、インタビュー形式など、どんな記録方法でも
オッケーです。話し手としてワークショップに参加しても盛り上がります。
【ワークショップの進め方】
①鑑賞者に作品を鑑賞させ、自分なりの解釈を発話させます。
②専門家の解釈を紹介します。
③自分の解釈と専門家や他者の解釈を比較しながら、それぞれの見方の違いを
話し合っていきます。
【関連理論】
世界に複数の真があることを論じたグッドマンの世界制作の方法をベースにデザインした本ワークショップ。世界制作という思想は、私は我々は世界を見ているのではなく世界を創っている、という考え方だと解釈しています。なので、世界には様々なヴァージョンが存在し、それが異なる真理を生み出すのです。
ネルソン・グッドマン(2008)『世界制作の方法』ちくま学芸文庫
【実践事例】
福島で開催中の芸術祭、土湯アラフドアートアニュアルで世界と解説というワークショップをします。
(阿部さん、勝手に作品画像を使ってすみません。)
【情報】 日時:10月11日(土)14:00会場、14:30-16:00 定員:15名 料金:無料 場所:マップ(5)旧いますや旅館1階奥 ファシリテーター:奥本素子
風の世界 読み解く作品「鉾井僑 “landscape”」/話し手 兼子明也(関東学院大学 人間環境学部 人間環境デザイン学科 准教授)
カラスの世界 読み解く作品「アサノコウタ “多膳の間”」/話し手 塚原直樹(総合研究大学院大学 学融合推進センター 助教)
異質の世界 読み解く作品「ゾーイ・マルドック “Wormwood Series”」/話し手 平井宏典(和光大学 経済経営学部 講師)
シカの世界 読み解く作品「有賀慎吾 “新型こけし こけしけこ”」/話し手 松本悠貴(総合研究大学院大学 生命科学研究科 博士過程)
【概要】 アート作品は、作品を作ったアーティストの意図を分析するだけではなく、鑑賞者が自分の経験や感覚を生かして、自分なりの解釈をすることがあります。このワークショップでは、あえてアート作品から想起した自分の世界と向き合い、参加者同士でその世界を共有していくことを目的としています。 ワークショップの前半は、研究者がアート作品から想起した世界を紹介していき、その後は、みんなで自分の世界と作品を絡めたアルバム作りを行います。 小学生から大人まで、誰でも参加できます。
多様な見方というのが相対主義ではなく、範囲と立場という前提の中でのヴァージョンである、という考え方はとても示唆的です。
違うものが同じことだったり、同じことが違ったりすることはあり得て、別の世界からの解説が意外に同じようなヴァージョンを作り上げているかもしれません。
福島では、生物や工学、社会科学の研究者を招いて作品から広がる自分の世界を語ってもらいます。
さらに私の知り合いの研究者にも、様々な世界の材料として勝手な作品語りをしてもらいました。
ちょっとここでご紹介。
漢字から”へん”や”つくり”をとって、カタカナやひらがなにして、文章を作る【清水玲】『置く 換える 移す』に寄せた国文学者の言葉です。
文字は情報伝達あるいは情報の保存の手段として 普遍性や正確性が担保されているように思われているけれどそれは実は文字の一面でしかなく実は一回性という性格を持っていたり見る・読む対象ごとに個別の意味や意義を発揮することがあります
それが 人の世にある さまざまな事象を面白くしてる ということを古い聖教などを調査してると感じます
この作品を見たとき感じたことは そのときの感覚に似てます
従来の安定した姿を捨て それによって保たれてた確たる存在感 信頼を捨て 何か気持ちを落ち着かないようにさせつつ 空間の中に鎮座してるのが面白いです 生で見たいなとおもいますその場の匂いや温度や空気と結びついたらもっとダイレクトにその文字の持つ不安定なところからの威力を体感できそうだなと思いました
雪の結晶を切り絵の型紙を繰り返しつなげることで描いた【松下徹】『WRECKAGE』に寄せた隕石学者の言葉です。
Q.雪の研究者、中谷宇吉郎は雪は空からの手紙といいましたが、 隕石は宇宙からの手紙なのですか?
うーん。 白紙の挑戦状ですかね。何も書いてないです。
Q.白紙なのに集めているんですか? あぶり出しのように何かが浮き上がってくるんですか?
集めるのが目的ではないので、一枚でもいいんです。 白紙だと挑戦状ってことは分かってるので、やらなきゃダメなんです。 あぶり出しだと誰がやっても同じものが見えるので、ちょっと違いますね。 光にあてたり折り曲げたりすると何か変わったものが見えてくる(気がする)ので、 それを論文にするのが隕石学者の仕事でしょうか。
架空の藁人形劇団を作り、人々の恨みのエピソードを上演する、【小西智恵+菅谷奈緒+A.Y.K.K.project】 『Under Control. or Why contemporary art should be democratic (全てはコントロール下に。もしくは、なぜ現代アートは民主的であるべきなのか) 』 に寄せた教育工学者の言葉です。
藁人形
なんで藁なのか。本気で呪うのであれば憎い奴のリアルなドールを作って目に釘でも刺せばもっと効くかもしれないのに。工芸的才能がない?じゃあ、球体関節人形買ってきて背中ひらいて、奴の髪の毛でも押しこんでから目に釘を・・・。 待て!、それは怖いぞ。丑三つ時の貴船神社で蝋燭の灯をたよりに球体関節人形に釘を打ち込む時、その目がこちらを見据えているのがわかったら恐怖で心臓が止まるかもしれない。人形がリアルであればあるほど、呪いが相互作用であることに気づいてしまう。いいように反駁できる議論上の噛ませ犬を英語でStraw manと呼ぶように、藁人形は安全な呪いの媒体なのかも。ただそれだけではない抽象的な藁人形に呪いを託す時、呪いは必然的に言語化される。リアルなドールは恨みを込めて引き裂けばいい。藁人形は恨みをぶつけるにはあまりに間抜けな形状をしている。そいつを使うには、「私を~で苦しめたOはこんな風になって しまえ」といった言語化が必要となるだろう。その時、呪いは成就し、同時に浄化されるのではないか。藁人形は、人間が考案した許しのためのインタフェースなのかもしれない。いや、それは言い過ぎか。確かめたかったら一度やって見なはれ。 (恨みのネットワークという別バージョンもあります。)
IKEAの机からバイオリンやメガネを作り、また机に戻した 【佐々木瞬】『机とモニター』に寄せた物理学者の言葉です。
たぶん,機能を持たせるために自由度を奪うんでしょ。 物理の研究は,見たいものを見るために,自然の自由度を奪うよ。 (もっと詳しく聞こうとしたら、「だりぃ、それしかいうことないよ。」といわれました。)
反応だけでも様々です。 今回のワークショップテーマは解説とはなにか、です。